ゆかた２

小一時間前の会話。

「承太郎さん、今日花火大会ッスよ！俺、承太郎さんと・・・」

「・・・何だ」

「あの、承太郎さんの浴衣姿、見てみたいな～なんて☆」

「・・・・・・」

「や、冗談です、つーか承太郎さんホント似合いそうですよね

　絶対カッコイイと思うんスよ～シブいっつーか色っぽいっつーか、

　何かもうとにかく・・・」

 

花火大会に行きたい、などと子供っぽい要求をしてしまったとか、

しかも浴衣着たいとか見たいとかワガママ言ってしまったとか、

黙り込んでひたりと自分に視線を当ててくる承太郎に

反省やら羞恥心やらで訳が分からなくなってまくし立てる。

 

そんな仗助を見て、無表情を決め込んだ承太郎が思うこと。

 

 

愛しい、カワイイ、浴衣？着てぇのか・・・いいな。よし。

 

 

「・・・何時からなんだ」

「いや、その・・・って・・・何時？」

「花火だよ。行きてぇんだろ」

「は、８時半ッス」

「今４時か・・・充分だな」

 

時計を見るなり、仗助の手を引いてソファから立ち上がらせて

部屋の外へと歩き出す。

後ろでドアがバタンと閉まり、エレベーターに押し込まれ、

ぐいぐい引っ張られて駐車場の車の中。

 

「・・・あの～、・・・」

 

黙ったままの承太郎に、急な展開についていけない仗助の心は散々にみだれ。

 

（承太郎さん、怒ってんのかな・・・）

 

このまま家の前で降ろされて「俺はガキに構ってるヒマはねぇんだ。もう来るな」とか。

わーごめんなさい！もうワガママ言いません、だから許して下さい。

 

（でも何でさっき花火大会の始まる時間聞かれたんだろ？）

 

もしかして、連れてってくれるとか？でも時間早すぎ、でもさっき「充分」って？

何が？バカ期待すんな俺！もう分かんねえ、うぅ承太郎さ～ん・・・

 

 

と、青くなったり赤くなったり、ちらちらとこちらを伺いながら刻々と変わる仗助の表情に

「面白い」とか「ガキ臭ぇ、だがカワイイ」とか。

鬼畜なコメントを心の中でつけながらハンドルを握り、着いた所はカメユーデパート。

 

「降りろ」

 

最小限の言葉をかけてドアを開け車を降りる。

そのまま歩き出そうとするが、どうした訳か、付いてくる気配がない。

振り返ると仗助はまだ固まっている。

 

「・・・？」

 

どうした事か、と助手席のドアを開け、「仗助」と呼んでやる。

 

「・・・・・・」

「仗助？おい、どうし・・・」

 

た、語尾が消えたのは、その顔が半泣きだったから。

 

わざと不安を煽るように無言のままここに連れてきた。

ただその後の反応が見たいがため。

安心して笑う、喜びに沸く顔が、見たい。

 

 

全く、カワイ過ぎるんだよ。何泣きべそかいてんだ？苛めすぎたか・・・ 

 

 

シートの上で、視線を合わせることさえ出来ずに震える仗助。
俯いたその顔を顎に手をかけて上向かせ、
覆いかぶさるように半身を車に入れてキスをしてやる。

ちゅう、と音を立てて一瞬で唇を離し、そのままの距離で囁く。
 

 

「浴衣、着てぇんだろ？・・・買ってやるからついてこい」

 

 

あとはもう振り返らず、「鍵閉めて来いよ」と言い置いて

ぽかんとしている仗助の膝にキーを投げるなり歩き出す。

 

 

「は・・・ぃ、ってえぇ、じょ、承太郎さ、マジッスか！？

　ちょ、待って待って、あ、カギカギ・・・っ痛ぇ！！」

 

 

降りるときに頭でもぶつけたのだろう、わーわー騒いでいる仗助の声は

信じられないだとか嬉しいだとか、そうした明るい感情が溢れていて。

それから走って追いついてくる足音、隣に並んだその顔を見下ろせば、

まだ半信半疑ながら、青い瞳はキラキラと輝いている。

 

「・・・えへへ」

 

泣きそうになった事への照れ笑いかそれとも単に嬉しくてしょうがないのか。

いずれにしても、今の仗助の笑顔はものすごい破壊力をもっていて、

それにぎゅうぅ、と胸をしめつけられた空条承太郎はくらりと眩暈を覚えるのだった。